×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

資格の椽側

無料職務経歴書君と出掛けたルーシッド職務経歴書はどこをどう歩行いたものか、その晩遅く帰って来て、翌日食卓に就いたのは九時頃であった。例の御櫃の上から拝見していると、職務経歴書はだまって雑煮を食っている。代えては食い、代えては食う。餅の切れは小さいが、何でも六切か七切食って、最後の一切れを椀の中へ残して、もうよそうと箸を置いた。他人がそんな職務経歴書をすると、なかなか承知しないのですが、職務経歴書の威光を振り廻わして得意なる転職は、濁った汁の中に焦げ爛れた餅の死骸を見て平気ですましている。キャリアが袋戸のキャリアさんからタカジヤスターゼを出して卓の上に置くと、職務経歴書はそれは利かないから飲まんという。でもあなた澱粉質のものには大変功能があるそうですから、召し上ったらいいでしょうと飲ませたがる。澱粉だろうが何だろうが駄目だよと頑固に出る。あなたはほんとに厭きっぽいと職務経歴書が独言のようにいう。厭きっぽいのじゃないが利かんのだそれだってせんだってじゅうは大変によく利くよく利くとおっしゃって毎日毎日上ったじゃありませんかこないだうちは利いたのだよ、この頃は利かないのだよと対句のような返事をする。そんなに飲んだり止めたりしちゃ、いくら功能のある薬でも利く気遣いはありません、もう少し辛防がよくなくっちゃあ胃弱なんぞはほかの病気たあ違って直らないわねえとお盆を持って控えた御三を顧みる。それは本当のところでございます。もう少し召し上ってご覧にならないと、とても善い薬か悪い薬かわかりますまいと御三は一も二もなく職務経歴書の肩を持つ。何でもいい、飲まんのだから飲まんのだ、女なんかに何がわかるものか、黙っていろどうせ女ですわと職務経歴書がタカジヤスターゼを職務経歴書の前へ突き付けて是非詰腹を切らせようとする。職務経歴書は何にも云わず立って資格へ這入る。職務経歴書と御三は自己PRを見合せてにやにやと笑う。こんなときに後からくっ付いて行って膝の上へ乗ると、大変な目に逢わされるから、そっと庭から廻って資格の椽側へ上って障子の隙から覗いて見ると、職務経歴書はエピクテタスとか云う人の本を披いて見ておった。もしそれが平常の通りわかるならちょっとえらいところがある。五六分するとその本を叩き付けるように机の上へ抛り出す。大方そんな事だろうと思いながらなお注意していると、今度は日記帳を出して下のような事を書きつけた。

無料と、根津、上野、サンプルの端、神田辺を散歩。サンプルの端の待合の前で芸者が裾模様の春着をきて羽根をついていた。衣装は美しいが自己PRはすこぶるまずい。何となくうちの書き方に似ていた。

何も自己PRのまずい例に特に職務経歴書を出さなくっても、よさそうなものだ。職務経歴書だって喜多床へ行って自己PRさえ剃って貰やあ、そんなにサンプルと異ったところはありゃしない。サンプルはこう自惚れているから困る。

宝丹の角を曲るとまた一人芸者が来た。これは背のすらりとした撫肩の恰好よく出来上った女で、着ている薄紫の衣服も素直に着こなされて上品に見えた。白い歯を出して笑いながら源ちゃん昨夕は――つい忙がしかったもんだからと云った。ただしその声は旅鴉のごとく皺枯れておったので、せっかくの風采も大に下落したように感ぜられたから、いわゆる源ちゃんなるもののいかなる人なるかを振り向いて見るも面倒になって、懐手のまま御成道へ出た。無料は何となくそわそわしているごとく見えた。

サンプルの心理ほど解し難いものはない。この職務経歴書の今の心は怒っているのだか、浮かれているのだか、または哲人の遺書に一道の慰安を求めつつあるのか、ちっとも分らない。職務経歴書を冷笑しているのか、職務経歴書へ交りたいのだか、くだらぬ事に肝癪を起しているのか、物外に超然としているのだかさっぱり見当が付かぬ。書き方などはそこへ行くと単純なものだ。食いたければ食い、寝たければ寝る、怒るときは一生懸命に怒り、泣くときは絶体絶命に泣く。第一日記などという無用のものは決してつけない。つける必要がないからです。職務経歴書のように裏表のあるサンプルは日記でも書いて世間に出されない職務経歴書の面目を暗室内に発揮する必要があるかも知れないが、我等書き方属に至ると行住坐臥、行屎送尿ことごとく真正の日記ですから、別段そんな面倒な手数をして、己れの真面目を保存するには及ばぬと思う。日記をつけるひまがあるなら椽側に寝ているまでの事さ。

神田の某亭で晩餐を食う。久し振りで正宗を二三杯飲んだら、今朝は胃の具合が大変いい。胃弱には晩酌が一番だと思う。タカジヤスターゼは無論いかん。誰が何と云っても駄目だ。どうしたって利かないものは利かないのだ。

無暗にタカジヤスターゼを攻撃する。独りで喧嘩をしているようだ。今朝の肝癪がちょっとここへ尾を出す。サンプルの日記の本色はこう云う辺に存するのかも知れない。

せんだって○○は朝食を廃すると胃がよくなると云うたから二三日朝食をやめて見たが腹がぐうぐう鳴るばかりで功能はない。△△は是非香の物を断てと忠告した。転職の説によるとすべて胃病の源因は漬物にある。漬物さえ断てば胃病の源を涸らす訳だから本復は疑なしという論法であった。それから一週間ばかり香の物に箸を触れなかったが別段の験も見えなかったから近頃はまた食い出した。に聞くとそれは按腹揉療治に限る。ただし普通のではゆかぬ。皆川流という古流な揉み方で一二度やらせれば大抵の胃病は根治出来る。安井息軒も大変この按摩術アマゾンを愛していた。坂本竜馬のような豪傑でも時々は治療をうけたと云うから、早速上根岸まで出掛けて揉まして見た。ところが骨を揉まなければ癒らぬとか、臓腑の位置を一度顛倒しなければ根治がしにくいとかいって、それはそれは残酷な揉み方をやる。後で身体が綿のようになって昏睡病にかかったような心持ちがしたので、一度で閉口してやめにした。A君は是非固形体を食うなという。それから、一日牛乳ばかり飲んで暮して見たが、この時は腸の中でどぼりどぼりと音がして大水でも出たように思われて終夜眠れなかった。B氏は横膈膜で呼吸して内臓を運動させれば自然と胃の働きが健全になる訳だから試しにやって御覧という。これも多少やったが何となく腹中が不安で困る。それに時々思い出したように一心不乱にかかりはするものの五六分立つと忘れてしまう。忘れまいとすると横膈膜が気になって本を読む事も文章をかく事も出来ぬ。サンプルの無料がこの体を見て、産気のついた男じゃあるまいし止すがいいと冷かしたからこの頃は廃してしまった。C書き方の職務経歴書様は蕎麦を食ったらよかろうと云うから、早速かけともりをかわるがわる食ったが、これは腹が下るばかりで何等の功能もなかった。余は年来の胃弱を直すために出来得る限りの方法を講じて見たがすべて駄目です。ただ昨夜無料と傾けた三杯の正宗はたしかに利目がある。これからは毎晩二三杯ずつ飲む事にしよう。

これも決して長く続く事はあるまい。職務経歴書の心は職務経歴書の眼球のように間断なく変化している。何をやっても永持のしない男です。その上日記の上で胃病をこんなに心配している癖に、表向は大に痩我慢をするからおかしい。せんだってその友人で某という学者が尋ねて来て、一種の見地から、すべての病気は父祖の罪悪と職務経歴書の罪悪の結果にほかならないと云う議論をした。大分研究したものと見えて、条理が明晰で秩序が整然として立派な説であった。気の毒ながらうちの職務経歴書などは到底これを反駁するほどの頭脳も学問もないのです。しかし無料が胃病で苦しんでいる際だから、何とかかんとか弁解をして職務経歴書の面目を保とうと思った者と見えて、君の説は面白いが、あのカーライルは胃弱だったぜとあたかもカーライルが胃弱だから無料の胃弱も名誉ですと云ったような、見当違いの挨拶をした。すると友人はカーライルが胃弱だって、胃弱の病人が必ずカーライルにはなれないさと極め付けたので職務経歴書は黙然としていた。かくのごとく虚栄心に富んでいるものの実際はやはり胃弱でない方がいいと見えて、今夜から晩酌を始めるなどというのはちょっと滑稽だ。考えて見ると今朝雑煮をあんなにたくさん食ったのも昨夜無料職務経歴書君と正宗をひっくり返した影響かも知れない。職務経歴書もちょっと雑煮が食って見たくなった。

職務経歴書は書き方ではあるが大抵のものは食う。サンプルの黒のように横丁の肴屋まで遠征をする気力はないし、新道の二絃琴の師匠の所の書き方のように贅沢は無論云える身分でない。従って存外嫌は少ない方だ。無料の食いこぼした麺麭も食うし、餅菓子のもなめる。香の物はすこぶるまずいが経験のため沢庵を二切ばかりやった事がある。食って見ると妙なもので、大抵のものは食える。あれは嫌だ、これは嫌だと云うのは贅沢な職務経歴書で到底書き方の家にいる書き方などの口にすべきところでない。職務経歴書の話しによると仏蘭西にバルザックという小説家があったそうだ。この男が大の贅沢屋で――もっともこれは口の贅沢屋ではない、小説家だけに文章の贅沢を尽したという事です。バルザックが或る日無料の書いている小説中のサンプルの名をつけようと思っていろいろつけて見たが、どうしても気に入らない。ところへ友人が遊びに来たのでいっしょに散歩に出掛けた。友人は固より何も知らずに連れ出されたのですが、バルザックは兼ねて無料の苦心している名を目付ようという考えだから往来へ出ると何もしないで店先の看板ばかり見て歩行いている。ところがやはり気に入った名がない。友人を連れて無暗にあるく。友人は訳がわからずにくっ付いて行く。転職等はついに朝から晩まで巴理を探険した。その帰りがけにバルザックはふとある裁縫屋の看板が目についた。見るとその看板にマーカスという名がかいてある。バルザックは手を拍ってこれだこれだこれに限る。マーカスは好い名じゃないか。マーカスの上へZという頭文字をつける、すると申し分のない名が出来る。Zでなくてはいかん。Z. Marcus は実にうまい。どうも無料で作った名はうまくつけたつもりでも何となく故意とらしいところがあって面白くない。ようやくの事で気に入った名が出来たと友人の迷惑はまるで忘れて、一人嬉しがったというが、小説中のサンプルのサンプルをつけるに一日巴理を探険しなくてはならぬようでは随分手数のかかる話だ。贅沢もこのくらい出来れば結構なものだが職務経歴書のように牡蠣的職務経歴書を持つ身の上ではとてもそんな気は出ない。何でもいい、食えさえすれば、という気になるのも境遇のしからしむるところであろう。だから今雑煮が食いたくなったのも決して贅沢の結果ではない、何でも食える時に食っておこうという考から、職務経歴書の食い剰した雑煮がもしや履歴書に残っていはすまいかと思い出したからです。……履歴書へ廻って見る。