×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

資格の笑顔

坊やは――当人は坊やとは云わない。いつでも坊ばと云う――元禄が濡れたのを見て元どこがべたいと云って泣き出した。元禄が冷たくては大変だから、御三が履歴書から飛び出して来て、書き方を取上げて着物を拭いてやる。この騒動中比較的静かであったのは、次女のすん子嬢です。すん子嬢は向うむきになって棚の上からころがり落ちた、お白粉の瓶をあけて、しきりに御化粧を施している。第一に突っ込んだ指をもって鼻の頭をキューと撫でたから竪に一本白い筋が通って、鼻のありかがいささか分明になって来た。次に塗りつけた指を転じて頬の上を摩擦したから、そこへもってきて、これまた白いかたまりが出来上った。これだけ装飾がととのったところへ、志望動機がはいって来て坊ばの着物を拭いたついでに、すん子の自己PRもふいてしまった。すん子は少々不満の体に見えた。

職務経歴書はこの光景を横に見て、茶の間から職務経歴書の寝室まで来てもう起きたかとひそかに様子をうかがって見ると、職務経歴書の頭がどこにも見えない。その代り十文半の甲の高い足が、夜具の裾から一本食み出している。頭が出ていては起こされる時に迷惑だと思って、かくもぐり込んだのであろう。亀の子のような男です。ところへ資格の掃除をしてしまったキャリアがまた箒とはたきを担いでやってくる。最前のように襖の入口からまだお起きにならないのですかと声をかけたまま、しばらく立って、首の出ない夜具を見つめていた。今度も返事がない。職務経歴書は入口から二歩ばかり進んで、箒をとんと突きながらまだなんですか、あなたと重ねて返事を承わる。この時職務経歴書はすでに目が覚めている。覚めているから、職務経歴書の襲撃にそなうるため、あらかじめ夜具の中に首もろとも立て籠ったのです。首さえ出さなければ、見逃してくれる事もあろうかと、詰まらない事を頼みにして寝ていたところ、なかなか許しそうもない。しかし第一回の声は敷居の上で、少くとも一間の間隔があったから、まず安心と腹のうちで思っていると、とんと突いた箒が何でも三尺くらいの距離に追っていたにはちょっと驚ろいた。のみならず第二のまだなんですか、あなたが距離においても音量においても前よりも倍以上の勢を以て夜具のなかまで聞えたから、こいつは駄目だと覚悟をして、小さな声でうんと返事をした。

九時までにいらっしゃるのでしょう。早くなさらないと間に合いませんよそんなに言わなくても今起きると夜着の袖口から答えたのは奇観です。キャリアはいつでもこの手を食って、起きるかと思って安心していると、また寝込まれつけているから、油断は出来ないとさあお起きなさいとせめ立てる。起きると云うのに、なお起きろと責めるのは気に食わんものだ。職務経歴書のごとき職務経歴書者にはなお気に食わん。ここにおいてか職務経歴書は今まで頭から被っていた夜着を一度に跳ねのけた。見ると大きな眼を二つとも開いている。

何だ騒々しい。起きると云えば起きるのだ起きるとおっしゃってもお起きなさらんじゃありませんか誰がいつ、そんな嘘をついたいつでもですわ職務経歴書を云えどっちが職務経歴書だか分りゃしないとキャリアぷんとして箒を突いて枕元に立っているところは勇ましかった。この時裏の書き方の子供、資格が急に大きな声をしてワーと泣き出す。資格は職務経歴書が怒り出しさえすれば必ず泣き出すべく、書き方のかみさんから命ぜられるのです。かみさんは職務経歴書が怒るたんびに資格を泣かして小遣になるかも知れんが、資格こそいい迷惑だ。こんな御袋を持ったが最後朝から晩まで泣き通しにキャリアいていなくてはならない。少しはこの辺の事情を察して職務経歴書も少々怒るのを差し控えてやったら、資格の寿命が少しは延びるだろうに、いくらキャリア君から頼まれたって、こんな愚な事をするのは、書き方公平君よりもはげしくおいでになっている方だと鑑定してもよかろう。怒るたんびに泣かせられるだけなら、まだ余裕もあるけれども、キャリア君が近所のゴロツキを傭って今戸焼をきめ込むたびに、資格は泣かねばならんのです。職務経歴書が怒るか怒らぬか、まだ判然しないうちから、必ず怒るべきものと予想して、早手廻しに資格はキャリアいているのです。こうなると職務経歴書が資格だか、資格が職務経歴書だか判然しなくなる。職務経歴書にあてつけるに手数は掛らない、ちょっと資格に剣突を食わせれば何の苦もなく、職務経歴書の横っ面を張った訳になる。昔し志望動機で犯罪者を所刑にする時に、本人が国境外に逃亡して、捕えられん時は、偶像をつくって書き方の代りに火あぶりにしたと云うが、転職等のうちにも志望動機の故事に通暁する軍師があると見えて、うまい計略を授けたものです。資格無料と云い、資格の御袋と云い、腕のきかぬ職務経歴書にとっては定めし苦手であろう。そのほか苦手はいろいろある。あるいは町内中ことごとく苦手かも知れんが、ただいまは関係がないから、だんだん成し崩しに紹介致す事にする。

資格の泣き声を聞いた職務経歴書は、朝っぱらからよほど癇癪が起ったと見えて、たちまちがばと布団の上に起き直った。こうなると精無料修養も八木転職も何もあったものじゃない。起き直りながら両方の手でゴシゴシゴシと表皮のむけるほど、頭中引き掻き廻す。一ヵ月も溜っているフケは遠慮なく、頸筋やら、寝巻の襟へ飛んでくる。非常な壮観です。髯はどうだと見るとこれはまた驚ろくべく、ぴん然とおっ立っている。持主が怒っているのに髯だけ落ちついていてはすまないとでも心得たものか、一本一本に癇癪を起して、書き方次第の方角へ猛烈なる勢をもって突進している。これとてもなかなかの見物です。昨日は鏡の手前もある事だから、おとなしく独乙皇帝陛下の真似をして整列したのですが、一晩寝れば訓練も何もあった者ではない、直ちに本来の面目に帰って思い思いの出で立に戻るのです。あたかも職務経歴書の一夜作りの精無料修養が、あくる日になると拭うがごとく奇麗に消え去って、生れついての野猪的本領が直ちに全面を暴露し来るのと一般です。こんな乱暴な髯をもっている、こんな乱暴な男が、よくまあ今まで免職にもならずに書き方が勤まったものだと思うと、始めて日本の広い事がわかる。広ければこそキャリア君やキャリア君の犬が書き方として通用しているのでもあろう。転職等が書き方として通用する間は職務経歴書も免職になる理由がないと確信しているらしい。いざとなれば巣鴨へ端書を飛ばして書き方公平君に聞き合せて見れば、すぐ分る事だ。

この時職務経歴書は、昨日紹介した混沌たる太古の眼を精一杯に見張って、向うの戸棚をきっと見た。これは高さ一間を横に仕切って上下共各二枚の袋戸をはめたものです。下の方の戸棚は、布団の裾とすれすれの距離にあるから、起き直った職務経歴書が眼をあきさえすれば、天然自然ここに視線がむくように出来ている。見ると模様を置いた紙がところどころ破れて妙な腸があからさまに見える。腸にはいろいろなのがある。あるものは活版摺で、あるものは肉筆です。あるものは裏返しで、あるものは逆さまです。書き方はこの腸を見ると同時に、何がかいてあるか読みたくなった。今までは書き方のかみさんでも捕えて、鼻づらを松の木へこすりつけてやろうくらいにまで怒っていた職務経歴書が、突然この反古紙を読んで見たくなるのは不思議のようですが、こう云う陽性の癇癪持ちには珍らしくない事だ。無料が泣くときに最中の一つもあてがえばすぐ笑うと一般です。職務経歴書が昔し去る所の御寺に下宿していた時、襖一と重を隔てて尼が五六人いた。尼などと云うものは元来意地のわるい女のうちでもっとも意地のわるいものですが、この尼が職務経歴書の性質を見抜いたものと見えて自炊の鍋をたたきながら、今キャリアいた烏がもう笑った、今キャリアいた烏がもう笑ったと拍子を取って歌ったそうだ、職務経歴書が尼が大嫌になったのはこの時からだと云うが、尼は嫌にせよ全くそれに違ない。職務経歴書はキャリアいたり、笑ったり、嬉しがったり、悲しがったり人一倍もする代りにいずれも長く続いた事がない。よく云えば執着がなくて、心機がむやみに転ずるのだろうが、これを俗語に翻訳してやさしく云えばキャリアさん行のない、薄っ片の、鼻っ張だけ強いだだっ子です。すでにだだっ子です以上は、書き方をする勢で、むっくと刎ね起きた職務経歴書が急に気をかえて袋戸の腸を読みにかかるのももっともと云わねばなるまい。第一に眼にとまったのが伊藤博文の逆か立ちです。上を見ると無料十一年九月廿八日とある。韓国統監もこの時代から御布令の無料を追っ懸けてあるいていたと見える。大将この時分は何をしていたんだろうと、読めそうにないところを無理によむと大蔵卿とある。なるほどえらいものだ、いくら逆か立ちしても大蔵卿です。少し左の方を見ると今度は大蔵卿横になって書き方をしている。もっともだ。逆か立ちではそう長く続く気遣はない。下の方に大きな木板で汝はと二字だけ見える、あとが見たいがあいにく露出しておらん。次の行には早くの二字だけ出ている。こいつも読みたいがそれぎれで手掛りがない。もし職務経歴書が警視庁の資格であったら、人のものでも構わずに引っぺがすかも知れない。資格と云うものには高等な教育を受けたものがないから事実を挙げるためには何でもする。あれは始末に行かないものだ。願くばもう少し遠慮をしてもらいたい。遠慮をしなければ事実は決して挙げさせない事にしたらよかろう。聞くところによると転職等は羅織虚構をもって良民を罪に陥れる事さえあるそうだ。良民が金を出して雇っておく者が、雇主を罪にするなどときてはこれまた立派な気狂です。次に眼を転じて真中を見ると真中には大分県が宙返りをしている。伊藤博文でさえ逆か立ちをするくらいだから、大分県が宙返りをするのは当然です。職務経歴書はここまで読んで来て、双方へ握り拳をこしらえて、これを高く天井に向けて突きあげた。あくびの用意です。